スクラムが崩れてからトライまでのシーンをまず見てみよう。
※↓該当シーンから再生開始します。
何度見ても感動するシーンだね。
そうだね。このスクラムが崩れた直後のシーンは,実は危ない場面だった。
スクラムが崩れてボールがこぼれだしてるんだが,これをデュプレアに奪われたら一巻の終わりだった。
画面の左上の数字を見てごらん。もう試合終了時間は過ぎている。ボールを奪われたり反則を犯したりすれば試合終了だ。
ギリギリだったんだね。試合終了時間が過ぎても試合続けるんだね。
そうだ。ラグビーは試合終了時間前最後のワンプレーが終わらなければ終了しない。
このワンプレーは相手の反則では終わらないが,自分が反則すれば終わってしまう。
選手は超緊張するね。ボールをこぼしたらノックオンを取られて試合終了だもんね。
そうだ。正に綱渡りの勝負を日本代表は仕掛けている。
この場面,日本代表は攻撃を繰り返して相手の防御を分散させようとしている。
ここで注目すべきなのがリーチキャプテンだ。彼だけで3回も突撃している。
凄い体力だね。
そうだ。この試合,リーチのタックル数は両チーム最多の17回だったが,攻撃面でもボールを持って何度もクラッシュしている。
おそらく,チームの中で走行距離は1番だっただろう。
そんなに走りまくって足攣らないのかな。
半分攣った状態だった。最後,タッチライン際でクラッシュした際に完全に攣ったらしい。
凄い執念だね。
ああ。足が攣りそうになっていた選手は彼だけじゃないだろう。特に前半からフル出場している選手はそうだろうね。
勝つためにみんな肉体の限界を超えて頑張ったんだね。
そうだね。そして,何度も攻撃を重ねて,右サイドで起点を作った日本代表は,今度は逆側に大きくボールを展開する。
南アフリカは人が1人少ない状態だから,大外に振れば単純に考えてこちらは1人余るね。
そうだね。起点を何度か作ってから逆側に大きく振るというのは最初から狙っていたんだろう。
この起点から日和佐がパスを出す際,五郎丸がナイスプレーをしている。これを見てごらん。
南アフリカの防御ラインに向けて走り込んでいるね。
そう。これは囮だ。とっさの判断だろう。これによって,南アフリカの注意は五郎丸に向き,防御ラインの動きが一瞬止まった。
この一瞬で生まれた余裕があったから,大外までパスを展開できたと言えるだろう。
日和佐と呼吸が合わなかったら,ボールを落としていたかもしれないね。このギリギリの場面で阿吽の呼吸が成立するなんて,凄いな。
そうだ。二人とも凄い。そして,日和佐からパスを受けた立川は,マフィに飛ばしパスを放つ。
飛ばしパスというのは,1人以上を飛ばしてパスをすることだ。
このパスには,素早く大外に展開できるメリットがある。しかし,ボールの滞空時間が長くなるから,その間に防御ラインに間を詰められてしまうというリスクがある。
このリスクを嫌って,日本代表では原則として飛ばしパスが禁止されていた。
しかし,この場面,立川はとっさの判断でその禁を破り,飛ばしパスを放った。
五郎丸の囮で余裕が出来たのも影響しているのかな。
ところで,立川は前に見た表だとこの試合でパスを4回しかしてないんだよね。
その4回のうち2回がトライに繋がっているというわけだな。
そうだね。立川のパスはこの試合の一つのキーだった。ちなみに彼は元々パスの名手として有名な選手だ。
ここぞという場面でパスを出したというわけだね。
そうだね。そして,立川のパスは,日本代表最強のランナー,マフィに渡る。
南アフリカがこの場面で最も注意していたのはこの驚異的な突破力を誇るマフィだろう。
マフィは,右サイドに展開したボールが,再び左サイドに展開されることを予想してこの位置にいたのだろう。
このまま大外に振ると防御ラインに追いつかれると判断したマフィは,自分でまず防御ラインに突っ込む。
そしてクリエルをハンドオフ(手で押しのけること)した。これで大外のピーターセンの注意も引き付けることに成功する。
そこですかさず大外にヘスケスに最後のパスを投げる。
マフィが引き付けたからヘスケスに余裕が出来たんだね。
そうだ。そしてヘスケスが左隅に飛び込む。このとき,ヘスケスが早めに身をかがめたのが功を奏した。この画像を見てごらん。
ピーターセンがヘスケスを抱えるかのようにして手を差し出しているね。
そう。これはグラウンディングを防ぐためだ。さっきもいったように,ラグビーはボールを地面につけなければトライにならない。
このとき,もうピーターセンはゴールラインを超えられることは覚悟していたんだろう。だから,グラウンディングを防ぐため,このような構えをとっている。
一瞬の差だが,ヘスケスが素早く身をかがめて低くしたから,ピーターセンの手をかいくぐり,グラウンディングすることができた。
ほんの一瞬の間に凄い攻防があったんだね。
そうだ。こうして日本は逆転に成功した。これはおそらくあらゆるスポーツを通じて人類史上最大の番狂わせと言ってよいだろう。
ラグビーは番狂わせが起きにくい競技だもんね。
そうだ。しかも展開が劇的だった。トライシーンだけをとってみても,11人モール,芸術的サインプレー,そしてラストワンプレーでの大逆転だ。
特にラスト5分からの19次連続攻撃,12人モール,ペナルティキックを選ばずスクラム,そして大きく展開してからの逆転トライという流れは,フィクションでも思いつかないような劇的な展開だ。
ハリーポッターの作者が「こんなの書けない」とうなったのも分かるね。
そうだね。ところで,下記の動画はこれまでのワールドカップにおいて番狂わせと言われた試合の上位5位までをまとめたものだ。これを見ると日本の番狂わせぶりがより際立っていることが分かる。
番狂わせの主役になったのは,日本を除くと,サモア,トンガ,フィジー,フランスか。
サモア,トンガ,フィジーは,いずれも体が非常に大きくて身体能力に優れている。だからティア2の最上位を占めている。
さらに,フランスは相手がニュージーランドだから番狂わせと言われたけど,元々ティア1の上位国だ。
4つの国に共通して言えるのは,体格のハンデがあまりなさそうだという点かな。
そのとおり。他の番狂わせを起こした国と比べると,日本は際立って体格が小さい。更に,相手がティア1の中でも上位を占める南アフリカだ。
番狂わせぶりがずば抜けているね。
そうだね。この番狂わせは驚異的な練習量と,緻密な戦略,そして本番の選手たちの勇気がなせる業だろう。
今後も日本代表は活躍できるかな。
それは新監督の手腕によるところが大きいだろうね。次は日本で開催されるから,是非今大会で成し遂げられなかったベスト8に進出してほしいね。