日本代表の後半最初のトライは,立川に注目すると面白い。
立川はこの試合で合計20回ボールを持っている。下記の表はその20回において立川が選択したプレーの内容を一覧にしたものだ。
NO | 内容 | 備考 |
---|---|---|
1 | クラッシュ | |
2 | クラッシュ | |
3 | クラッシュ | |
4 | クラッシュ | |
5 | クラッシュ | |
6 | クラッシュ | |
7 | クラッシュ | |
8 | キック | |
9 | クラッシュ | |
10 | クラッシュ | |
11 | キック | |
12 | パス | ここからトライ |
13 | パス | |
14 | クラッシュ | |
15 | クラッシュ | |
16 | パス | |
17 | クラッシュ | |
18 | クラッシュ | |
19 | クラッシュ | |
20 | パス | ここからトライ |
20回中14回もクラッシュしているね。パスはたった4回しかない。
そこがポイントだ。後半のトライの前には一度もパスをしていないのが分かるだろう?
本当だ。
陣地回復のためのキック以外は全てクラッシュだ。その相手は主に相手のスタンドオフだ。
南アフリカのスタンドオフはあまりタックルが強くないという分析結果が出ていた。
これは先発のランビ,交代して出てきたポラート両方に言えることだった。
そこで,立川は相手のスタンドオフにクラッシュを繰り返し,防御網に楔を打ち込んでいた。
例えばこの場面を見てごらん。
※該当シーンから再生開始します。
怖いね。物凄い勢いでぶつかりにいっているね。
そうだ。これを繰り返すことにより,南アフリカに「立川はボールを持つと必ずクラッシュしてくる」と思いこませた。
これが,後半最初のトライの伏線になる。まずは動画を見てみよう。
※該当シーンから再生開始します。
何度見ても気持ちがいい鮮やかさだねぇ。
そうだね。では細かく分けて見てみよう。まず,ラインアウトでボールをキープし,立川がボールを持った場面だ。
この場面,日本代表の狙いは,11番の松島にボールを持たせて,ポラートとデヴィリアスの間を突破することだ。
つまり,ポラートとデヴィリアスの注意を松島以外に向けることが必要になる。
よく見てごらん。ここから日本代表は3重のフェイントを仕掛ける。
今までさんざん立川がクラッシュを繰り返してきたから,立川の正面のポラートは,当然また立川がクラッシュすると思うだろう。
これが第一のフェイントだ。これによってポラートは立川に注意が向く。
ところが,ここでサウがポラートとデヴィリアスの間に向けて走り込んで来る。立川もパスをするような仕草をする。
サウは極めて突破力の高い選手だから,デヴィリアスの注意がサウに向く。
しかし,サウは囮だ。これが第2のフェイント。立川は小野にパスをする。
これで,デヴィリアスは小野がクラッシュしてくるのかと一瞬思うだろう。これが第3のフェイントだ。
もう一方のポラートは半分立川にタックルに入っているね。見事に引っかかってる。
そうだ。こうやってポラートの注意は立川に,デヴィリアスの注意は小野に向かっている。松島は完全に盲点だ。
そこで,小野が松島にパスを出し,松島が防御ラインを突破する。
立川と見せかけてサウと見せかけて小野と見せかけて松島ということだね。一瞬の間に3重のフェイントをかけてるわけだな。凄い。
そうだ。しかし,防御ラインを突破しても,相手の守備の最後の砦であるフルバックのカルシュナーが待ち構えている。
また,左ウイングのムボボも松島を追いかけてきている。
そこで後ろから五郎丸が突如現れるということだね。
そうだ。フルバックは守備面では最後の砦になるが,攻撃の際は,いわばジョーカーのような役割を果たす。
この場面,本来五郎丸をマークしておくべきだったムボボが松島を追いかけたため,完全に五郎丸がフリーになった。
ただ,もしムボボが五郎丸をそのままマークしていたとしても,更に外側に右ウイングの山田が完全にフリーで待っていた。
松島が抜け出した時点で,日本のトライはほぼ決まっていたということかな。
そうだね。考え抜かれたサインプレーだ。もはや芸術と言ってよい。
立川が試合当初からクラッシュし続けていたのは,この場面のためとも言い得るね。
試合当初から罠を張っていたなんて,凄いな。
そうだね。立川が相手守備陣の注意を引きつけていたからこそできたプレーだね。
さて,次はいよいよ最後の総攻撃の場面を見てみよう。
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