モノシリンの3分でまとめるモノシリ話

モノシリンがあらゆる「仕組み」を3分でまとめていきます。

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苦しいな 身近な物価 爆上がり

値上げのニュースを頻繁に目にするようになったが、日銀の「前年比2%の物価目標」は達成されないままである。

この「物価目標未達成」だけに着目してしまうと、物価は上がってないかのように錯覚する。

しかし、皆さんの体感では、ずっと前から物価が上がりまくっていないだろうか。

その体感は正しい。

 

身近な物価に焦点を当ててみると、信じられないくらい上がっている。

まず、穀類、魚介類、肉類、乳卵類を見てみよう。

アベノミクス前との比較がしやすいよう、2012年を100として計算し直した指数を掲載する。

 

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このように、2012年と比較した場合、2021年の各指数はこんなに上昇している。

魚介類:29.9%

肉類:20.4%

乳卵類:13.3%

穀類:2.9%

 

穀類を除き、物凄い勢いで上昇している。

 

次にこちら。

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先ほどと同様、2012年と2021年の比較をしてみるとこんなに上がっている。

野菜・海藻:12.1%

果物:27.7%

菓子類:17.7%

調理食品:12.2%

外食:11.3%

 

こちらも凄い上昇率だ。

 

なお、こういう数字を示すと、いわゆるシュリンクフレーション(値段そのままで中身が減る現象。ステルス値上げともいう)は反映されているのか、という質問を受ける。

これは「品質調整」によってちゃんと反映されている。

総務省の説明を引用しよう。

https://www.stat.go.jp/data/cpi/2015/mikata/pdf/2.pdf

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もっと簡単な例でいえば、値段そのままで中身が半分になった場合、倍の値段になったと扱われる、ということである。

シュリンクフレーションはお菓子について話題になることが多いが、先ほど見た通り、お菓子は17.7%も上昇している。

 

次に、食料関係を全部ひっくるめたものがこちら。

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13%も上昇している。

なお、消費者物価指数において、食料のウェイトは約26.3%。中分類の項目中で最大を占めるため、物価への影響は最も大きいと言える。

 

では次に電気ガス水道を見てみよう。

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電気代:13.5%

上下水道料:10.2%

ガス代:-0.6

 

ガス代がマイナスになっているのが意外だが、電気と水道は共に10%を超える上昇率となっている。

 

教養娯楽費も、下記グラフのとおり、9.6%という高い伸び率を示している。

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これらの「身近な」物価は、皆さんの体感と一致するのではないだろうか。

 

◆どうしてこんなに上がったのか

どうしてこんなに物価が上がっているのか。要因は単純に一つには絞れないが、消費税の増税が影響していることは間違いない。アベノミクス前と比較して合計で5%上がっている。

しかし、それだけでは、10%を大きく超えるような上昇を説明できない。

最も大きな要因は円安であろう。名目為替レートを見てみよう。

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このように、2012年の12月頃から円安が進み始め、それがいったん収まったところで、2014年11月頃からさらに急激に円安が進んだ。民主党時代は1ドル80円程度だったのが、ピークの2015年には120円台を突破している。これは、円の価値がドルに対して約3分の2になってしまったことを意味する。

 

貿易の決済には基軸通貨であるドルが使用されるため、円安になれば輸入物価が上がり、それは国内物価にも反映される。

要するに、円の価値を無理やり下げて円安にすれば、物価は上がるのである。

 

なぜ円安になったのかと言えば、アベノミクスの第1の矢「異次元の金融緩和」の影響である。

 

端的に言うと、「金融緩和」というのは、「お金を増やす」ということである。そして、お金は増えれば増えるほど価値が下がる。お金の価値が下がるということは、物価が上がるということである。物の値段が倍になったとすれば、お金の価値が半分に下がったことを意味する。

 

したがって、金融緩和を思いっきりやると宣言することは、「円の価値を下げます」と全世界に宣言するのと同じである。そうすると、価値の下がる通貨を持っていたくないと考える投資家が、価値が下がる前に円を売りに走る。そうやって円安が進む。

 

異次元の金融緩和が開始されたのは2013年4月であるが、その前から円安は始まっていた。これは、既に安倍氏が2012年12月の総選挙より前の段階で、「大胆な金融緩和をする」と宣言していたからであろう。

 

例えば2012年11月19日付の朝日新聞の記事で「2%、3%、どちらがいいのかは専門家の議論に任せるわけだが、インフレターゲットをしっかりと達成して、それまでには、日銀はまさに、無制限に金融緩和を行っていく。こうしたことを打ち出していく。」

と宣言している。

www.asahi.com

これは自民党の公約にも入っていた。

「デフレ・円高からの脱却に向けて欧米先進国並みの物価目標(2%)を政府・日銀のアコード(協定)で定めるとともに、日銀の国債管理政策への協調などにより大胆な金融政策を断行します」

と書いてある(p22)

https://jimin.jp-east-2.storage.api.nifcloud.com/pdf/j_file2012.pdf

 

当時、自民党が政権奪取し、安倍氏が次の総理になるのは確実と思われていた。

将来の総理が「円の価値を下げます」と宣言したため、実際に政策が始まる前に為替市場が動き、円安が進んだのであろう。

 

こうして円安インフレによって無理やり物価を上げようとしたものの、目標に達しなかった。

そこでどうしたかと言えば、2014年10月31日に、さらに緩和の規模を拡大すると宣言した。それによって、さっきのグラフのとおり、急激に円安が進み、1ドル120円台にまで達したのである。

 

ところが、円安がピークを迎えるのと同じころ、原油価格が暴落した。

グラフを見てみよう。

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2014年~2015年にかけて凄まじい勢いで暴落している。

原油は輸送燃料になるほか、あらゆる物の原材料になるので、原油価格の動向は物価に大きく影響する。こうやって原油が暴落したので、2015年の円安インフレはかなり抑え込まれる結果となった。

 

その後、いったん円高に振れたが、再度円安になり、さらに原油価格が戻ってきたため、以後物価の上昇傾向が続いた。

 

この円安と原油暴落の影響は、消費者物価指数のうち、「エネルギー」の動向を見ると非常に分かりやすく表れているので見てみよう。

 

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このように、2014年までは円安の影響により、2012年と比較して12.7%も上昇したが、原油暴落によって、一気に落ちていき、最も低い時で93.9にまで下がった。

 

この原油暴落という偶然が無ければ、円安インフレはもっと凄まじいものになっていただろう。

 

◆逆に下がっているのは?

ほとんど上がっている項目ばかりなのだが、下がっているものもある。

例えば、家賃は2012年と比較すると1.7%下がった。

もともとアベノミクス前から低下傾向にあり、それがそのまま継続している。

輸入物価と関係ないので、円安の影響は無い。

 

家賃のウェイトは約18.3%なので、全体への影響は大きい。

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この「家賃」がかなり重要なので覚えておいてほしい。

 

次に、最も極端に落ちているのが通信である。

2012年と比較すると27.8%も落ちた。

2021年にいきなり落ちているが、これは携帯電話料金の値下げの影響であろう。

通信のウェイトは約4.4%なので影響は結構ある。

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「授業料等」も大きく下がっている。2012年と比較すると10%落ちた。

これはコロナの影響で授業料減免がされた影響であろう。

それ以前は緩やかに上昇していた。

 

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◆「総合」指数は?

 

それでは、全部ひっくるめた数字はどうなっているだろうか。

消費者物価指数のうち、「総合」と名の付くものは、下記のとおり6種類もある。

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それぞれ、2021年と2012年を比較するとこれだけ上昇している。

①総合:5.6%

②生鮮食品を除く総合:4.9%

③持家の帰属家賃を除く総合:6.9%

④持家の帰属家賃及び生鮮食品を除く総合:6.1%

⑤生鮮食品及びエネルギーを除く総合:4.8%

⑥食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合:2.6%

 

この6つもある「総合」のうち、日銀が「前年比2%」の上昇を目指しているものが②の「生鮮食品を除く総合」である。

日銀のウェブサイトから引用しよう。

2%の「物価安定の目標」と「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」 : 日本銀行 Bank of Japan

日本銀行は、「オーバーシュート型コミットメント」で、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続することを約束しています。これによって、2%の「物価安定の目標」の実現に対する人々の信認を高めることを狙いとしています。

 

この6つの中でもう一つ重要なのは、実質賃金算定に用いられる「持ち家の帰属家賃を除く総合」である。6つの総合のうち、最も高い6.9%の伸びを示している。

「持ち家の帰属家賃」とは、持ち家について「発生したことにする」家賃のことである。

自分の所有する家について家賃は発生しない。しかし、消費者物価指数GDPの算出に当たっては、持ち家であっても、家賃が発生したことにしている。これは現実の家賃を元に算出される。

 

ただ、これは実際には発生していない、いわば架空の家賃である。したがって、実質賃金の算定に当たっては、これを除いた「持ち家の帰属家賃を除く総合」が用いられているのである。

この数字こそ、全ての現実の物価をひっくるめた総合指数であり、我々の購買力を測るものとして最もふさわしい。だから、実質賃金算定の基礎になっている。一番重要な「総合」と言ってよいだろう。

 

この「持ち家の帰属家賃を除く総合」と、日銀が物価目標としている「生鮮食品を除く総合」の伸び率を比較すると、後者の方が2%も低い。

なぜこんなに差が出るのか。ここから非常にややこしい話をする。

 

まず、「生鮮食品」が影響している。

単なる「総合」と、「生鮮食品を除く総合」を比較してみると、後者の方が0.7%低い。生鮮食品を除いたことによって、0.7%下がった、ということである。

 

次に「持ち家の帰属家賃」である。

 

単なる「総合」と、「持ち家の帰属家賃を除く総合」を比較してみると、後者の方が1.3%も高い。つまり、持ち家の帰属家賃を除くと、1.3%も上昇するということだから、これを裏返すと、持ち家の帰属家賃を含めた場合、1.3%物価を下押しする効果があるということになる。

 

この持ち家の帰属家賃、いわば架空の数字なのだが、消費者物価指数におけるウェイトは約15.8%もある。なお、現実に発生している家賃のウェイトは約2.5%。

で、先ほど見た通り、家賃は下落している。

そして、持ち家の帰属家賃は現実の家賃を元に算出される。

つまり、持ち家の帰属家賃を含めて総合指数を出すと、家賃の下落効果が増幅して反映されてしまうのである。だから物価の下押し要因となる。

 

日銀が指標にしている「生鮮食品を除く総合」という数字は、生鮮食品を除いているだけなので、持ち家の帰属家賃は入っている。したがって、物価上昇率が下がってしまう。生鮮食品を除いたことによる下押し効果よりも、こちらの方が下押し効果が大きい。

 

結局、日銀が指標にしている「生鮮食品を除く総合」は、我々の生活実感よりも低く出やすい数字と言ってよいかもしれない。

最もウェイトの大きい「食料」は13%も上昇しているのに、「生鮮食品を除く総合」は4.9%しか上昇していないのだから。

もし、「生鮮食品を除く総合」が前年比で2%も上昇したら、食料はもっとすごい勢いで上昇するだろう。

日銀は全力で我々を貧乏にしようとしているようにしか見えない。

というか、もう貧乏にされているわけだが。

 

◆今後、どうなるか

2015年に円安が最も進んだ際は、原油の暴落という偶然によって円安インフレが相当押さえつけられた。

しかし、現在は円安と原油高が同時進行している。この傾向が続く限り、物価は上昇し続ける。

で、日銀がそれを押さえつけられるかというと・・・できない。それがアベノミクス最大の副作用である。

詳しくは私が今までに出した本で書いてあるが、一番最近のものは「財政爆発」。

 

 

私は単に現実を書いただけなのだが、そのせいで何も救いが無い本となった。

つらい現実を知りたくない人は読まない方が良い。

 

どんどん物価は上がっていくだろうから、ほしいものがあれば今のうちに買っておくべきである。そうしないと後悔するだろう。私も最近は躊躇なく趣味に散財している。