つい最近,JBPRESSにこんな記事を投稿した。結構な反響であった。
そしてこの記事について経済評論家の池田信夫氏がこんなツイートをしていた。
またこの人間違えてるよ・・・・
さて,ツッコミを入れる前に前提を整理する。私のこの記事は,平成28年12月のGDP改定によって,アベノミクス以降の数字が異常に大きくかさ上げされたことを問題にしている。
かさ上げ額だけ抜き出したのが下記のグラフ。
アベノミクス以降(2013年度以降)が異常にかさ上げされているのが一目瞭然。
そして,このかさ上げ要因を大きく二つに分けると,①2008SNA対応②その他,の二つである。
2008SNAは国際的なGDP算出基準のこと。日本はこれへの対応が遅れていた。2008SNAだと研究開発費などが加算されるので,GDPがだいたい20兆円前後かさ上げされる。
で,問題は「その他」である。
「その他」によるかさ上げ額は下記グラフのとおり。
アベノミクス以降「だけ」大きくプラス。他はほぼ全部マイナス。特に90年代思いっきりマイナス。
明らかにおかしい。
大事なことだから5回言う。
「その他」は2008SNAと関係ありません。
「その他」は2008SNAと関係ありません。
「その他」は2008SNAと関係ありません。
「その他」は2008SNAと関係ありません。
「その他」は2008SNAと関係ありません。
しつこいよ!と思ったかもしれないが,私がこれほどしつこく言いたくなる理由は読んでいけば分かってもらえる。
さて,このGDP改定について,かつて池田氏がなんと言っていたか。ツイートを引用する。
これはGDPを計算する「SNA」を新基準に変更したために名目ベースで31兆円嵩上げされたんだよ。恥ずかしいから、自民党はこのツイートを削除したほうがいい。 https://t.co/aTttQNMrNq
— 池田信夫 (@ikedanob) 2017年10月10日
このツイートからは,改定要因がすべて2008SNA対応によるものと理解しているように読める。そう,彼は「その他」の存在に気付いてすらいなかったのである。
この池田氏のツイートを引用して書いた下記記事はけっこうヒットした。
で,今回池田氏が何と言っているかというと・・さっきのツイートのとおり「GDP統計の基準を2011年の産業連関表に変えた結果、それ以降が上方修正されたことは政府も断っている。」と述べている。
「その他」のかさ上げ要因が産業連関表の変更「だけ」であると読める文章である。これは後述するとおり誤り。
また,私は前提を知っているので,池田氏が「その他」について言っていると理解できる。しかし,前提を知らない人にとっては,「その他」だけではなく,「2008SNA対応部分」も含めた改訂要因の全てが産業連関表によるものとミスリードしてしまうだろう。その意味でも不適切(ツイートを見た人すべてがリンク先を読むわけではない)。
さらに「それ以降が上方修正された」との文章は「2011年以降が上方修正された」と読めてしまう。これもミスリード。「その他」によって大幅な上方修正がされたのはアベノミクスが開始された2013年度以降のみ。なお,それ以前はむしろ「下方」修正ばかりである。
この短い文章の中にこれほどのツッコミ所を作る池田氏・・・恐ろしい人。
ここで,GDPを作成した当の内閣府からの分かりやすい回答メールがあるので引用しよう。これは拙著「アベノミクスによろしく」の担当編集本川氏の問い合わせに対する内閣府の回答である。
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集英社インターナショナル 本川様
平素より大変お世話になっております。
内閣府経済社会総合研究所のIと申します。
昨日お問い合わせのあった件について連絡が遅くなり、申し訳ありません。
当方で確認しましたところ、「その他」は平成23年基準改定のうち、「2008SNA対応」を除いた部分になりますが、
産業連関表の取り込み、定義・概念・分類の変更、その他の推計方法の変更(建設コモ法の見直し)等々が含まれ、
様々な要素があり、どの項目にどれほど影響しているか等の内訳はございません。
ですが、以下の資料でそれぞれ、2008SNA対応とそれ以外で詳しく解説がありますので、
ご参考までに送付させていただきます。
プレアナウンス
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/seibi/2008sna/pdf/20160915_2008sna.pdf
↓さらに詳しく
利用上の注意
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h27/sankou/pdf/tyui27.pdf
↓さらに詳しく
季刊
http://www.esri.go.jp/jp/archive/snaq/snaq161/snaq161_c.pdf
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以上のとおり,産業連関表の取り込みは様々ある「その他」要因の中の一つに過ぎない。池田氏がろくに調べずに適当なツイートをしているのがこれで分かっただろう。ちゃんと調べろよほんとに。
だいたい「新しい産業連関表の採用でこうなった」という理解ですんなり納得していいのか。アベノミクス以降だけあんなに上がって他はほぼ全部マイナスになっているのに。専門家ならそこに疑問を持つべきであろう。
なお,池田氏はろくに調べもせずに適当なことを言い,伊藤和子弁護士の名誉を棄損した挙句,東京高裁で114万円の損害賠償判決を下されたという経歴をお持ちの方であることを付記しておく。下記記事参照。この失敗から彼は学んでいないようである。今回もろくに調べずに「フェイクだ」と適当なことを言い,私の名誉を結構傷つけたと思う。彼はツイッターフォロワーが20万人以上もいて相当影響力があるが,こういう適当な発言をする人であることに注意しなければならない。
また,彼は「改ざんの根拠は何も書いていない」と言うが・・・だからJBの記事の中に下記リンクを貼っていたのに。改ざんを疑う根拠はここに書いてある。これを全部書くと長くなりすぎるのでJBには書けなかった。その代わりにリンクを貼った。
こうやってリンクを貼ってもめんどくさがって読まない人がほとんどだろうが,少なくとも私に文句を言いたい奴はこれを読んでからにしてほしい。
読むのがめんどくさい人のために概要だけ説明すると,私が大騒ぎした影響で,改定から1年以上経過してやっと「その他」の内訳に「近いもの」が出てきたので,それについて分析している記事である。特に家計最終消費支出がとっても怪しいことになっているのがミソ。
で,家計最終消費支出に関連して,つい最近怪しい数字が開発されたのでそれについて書いたのがこちらの記事。
さて,池田氏についてはこれくらいにしておく。
次は漫画家の須賀原洋行氏について。
彼はこんなツイートをしている。
彼のツイートを要約すると下記のとおり。
①日本のGDPをドル換算したグラフを使ってミスリードを誘う人達がいるが,それは「アベノミクスによろしく」のせい。
②GDPの改定は国際社会の基準に合わせただけであり,何度も論破されている。
まず①の点について。拙著を読んだ方なら分かるが,私はドル換算したGDPなど一度も使っていない。このブログでも一度も使ったことが無い。
彼が私の本を読まずに適当なことを言っているのは明らかである。
ひとつ言わせていただこう。
読んでから批判しろよ。
こう言うと「わざわざ買って読みたくない」とか反論されそうだ。
だったら批判するな。読んでないくせにする批判は批判ですらない。ただのデマである。読んだフリしてデマを振りまくな。
次に②の点について,さっきなぜ私が「「その他」は2008SNAと関係ありません。」と5回も繰り返したのか,お分かりいただけただろうか。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も同じような内容の記事を書いているし,JBの記事中にももちろん書いているのだが,「その他」は2008SNAと全く関係ないのである。
で,「その他」について気付いたのは私だけなので,「論破」などされるはずが無い。論争にすらなっていない。私の知る限り,専門家と称する人々の中でこの問題を詳細に分析した人はいない。
ちゃんと読んでいればこんな間違いはしないはず。おそらく,彼は記事タイトルだけ見て中身を読んでないのだろう。
もう一度言おう。
読んでから批判しろよ。
ただ,彼の間違いはこの問題の根深さを示すものとして貴重なサンプルである。内閣府の狙い通り,「2008SNA対応」が抜群の隠れ蓑効果を発揮し,「その他」で怪しい数字の操作がされていることは覆い隠されている。
まあ安倍信者の方々(私は彼らを「アベンジャーズ」と呼んでいる)は「その他」について知ったとしても何も変わらない。大事なのはアベンジャーズ以外の方々にこの事実を知ってもらうことである。
拙著のダイジェストはこちら。
自分の本を出してみて気付いたのは,読まずに批判する輩がけっこういるということである。下記記事の中で取り上げてる人とか。
こういう人達がいるからツイッターとかでチンプンカンプンな論争が日々生じるんだろうね。