ついに「働き方改革関連法案」なるものが審議入りしてしまった。
この法案の中には裁量労働制の拡大も含まれる予定だったが,インチキデータを使って国民を騙していたことがばれたので,その部分は削除された。
法案の中には,「高度プロフェッショナル制度」なるものが含まれている。略して「高プロ制」。
要綱に書いてある正式名称は「特定高度専門業務・成果型労働制」という。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-32.pdf
今まで「残業代ゼロ法案」と言われてきたものである。
働き方改革法案には残業時間の上限規制も含まれているが,高プロ制の対象者にはもちろん上限規制は無い。したがって,高プロ制は上限規制を骨抜きにするものである。
厚労省の資料から高プロ制の概要を抜き出してみよう。
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/196-31.pdf
①職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、
②高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、
③年間104日の休日を確実に取得させること等の健康確保措置を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、
④労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。
というものである。
④が強烈である。労働時間に関するすべての規制が外れるということである。休憩もなし。
裁量労働制ですら,休日や深夜の割増賃金は発生するので,明らかに裁量労働制より強烈な制度である。「スーパー裁量労働制」と呼ぶ人がいるのもうなづける。
なお,裁量労働制は一応出退勤に裁量があるが,高プロ制はそれすらない。労働者にとってのメリットは全くない。
年間104日の休日と言っているが,正確に言うと「1年間に104日以上、かつ、4週間を通じ4日以上の休日」である。
具体的に言うと,週休2日ならこの条件を満たす。
また,24日連続勤務させて,4日連続で休ませるということも可能。
盆も正月も祝日も勤務させることが可能。
で,健康確保措置というのは,下記のいずれかを選べば良いことになっている。さっきの資料から抜粋する。
①インターバル措置
②1月又は3月の在社時間等の上限措置
③2週間連続の休日確保措置
④臨時の健康診断
繰り返すが,「いずれか」で良い。この4つのうち,一番楽なのは明らかに④の健康診断である。
では,具体的にどのような「働かせ方」が可能になるかと言うと・・・こんな感じ。
・健康診断を受けさせつつ,週休2日で毎日24時間休憩なしで働かせる。
・健康診断を受けさせつつ,24日連続毎日24時間休憩なしで働かせて4日連続休ませる。
殺す気か。
もちろん,これだけ無茶苦茶な働かせ方をしても,一円たりとも残業代は発生しない。
成果型労働とうたっているが,法案の中に成果給を義務付ける規定は無いので,嘘。
単に固定給のまま残業代ゼロにする企業がほとんどだろう。
嘘を平気で正式名称の中に埋め込むという狂気。
「ま,高給取りだけが対象でしょ?」と思うかもしれないがそれも間違い。
対象者の年収について,正確に言うとこう決められている。
労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を一年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまって支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう。)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること。
要約すると,最初は平均年収の3倍を相当程度上回る額の人が対象ということである。
毎月勤労統計調査のボーナス等を除く月給から,平均年収を算定すると大体310万円ぐらい。だからその3倍は930万円。
スタートは少なくとも1000万円以上となっているので,「平均年収の3倍を相当程度上回る」と言える。
これが「2倍」に改正されたら,620万円を相当程度上回る年収の人が対象。
さらに「2倍」すら外されて,単に平均年収を相当程度上回る額にされると,310万円を相当程度上回る人が対象。
で,かつて経団連は年収400万円以上の人を残業代ゼロにせよと提言しています。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/042/gaiyo.pdf
絶対年収400万円以上ゼロにしてきますよこれは。
以前塩崎厚労大臣も「小さく生んで大きく育てる」ってはっきり言ってますからね。
とりあえず通しちゃえばいいと。
その発言がこちら。
フリーザ風に言えば,この高プロ制はあと2回変身の余地を残しているのである。
2回改正を重ねて,3倍⇒2倍⇒1倍にすれば,経団連の野望は達成できる。
これほど長時間労働が問題になっているというのに,残業代ゼロにするというのは狂っている。
残業代は長時間労働にブレーキをかけるために存在するのである。
そして,残業代不払いが横行しているので,全然ブレーキが利かず,長時間労働が無くならない。
私自身,残業代が払われない企業に勤務していた経験があるので身に染みて良くわかる。
「残業代なくせば早く帰るようになるでしょ」とのたまう者がいるが,ブラック企業で一度働いてから言えこの馬鹿野郎!
それにしても,ふざけている。
裁量労働制はデータをねつ造して国民を騙したのがばれたので引っ込めた。
しかし政府は裁量労働制よりもっと強烈なやつを通そうとしている。「時間ではなく成果で評価する制度」などとまた嘘をついて。
おかしいだろ,これ。
「殴ってごめんなさい。今度はもっと強い力で殴っていいですか?」と言われてる気分である。
なお,経済政策の観点からも間違っている。
高プロ制は単に残業代をカットして賃金を下げるのが目的の政策である。
賃金下げたら物価なんぞ上がるわけないじゃないか。
それとも賃金は下がってもいいからとにかく物価を上げたいとでもいうのか。
そしたら実質賃金が下がって生活が苦しくなるだけである。経済成長もできない。
やるべきことは逆なのだ。残業代不払いを徹底的に取り締まってきちんと残業代を払わせ,給料を上げていかなければ物価が上がっていくはずがない。
この問題に右派も左派も無いだろう。
国民総がかりで高プロ制は潰していくべきである。
今はSNSが発達しているので,国民一人一人が発信者になることができる。
「#高プロは廃案」というハッシュタグをSNSで大拡散させて,国民の声を国会に届けよう。
1人1人の発信力を結集して高プロを廃案に追い込もう。我々は無力ではない。
#高プロは廃案