モノシリンの3分でまとめるモノシリ話

モノシリンがあらゆる「仕組み」を3分でまとめていきます。

作者の連絡先⇒ monoshirin@gmail.com

週間新潮さ~ん,カサアゲノミクスも取り上げてよ~

週刊新潮2017年10月19日号には,

【偽装大国 中国もビックリ!政府発表「GDP4%成長」実は「マイナス9.9%」のカラクリ】なる記事が載っている。

 

www.shinchosha.co.jp

 

私も読んでみたが,要するに季節調整値で怪しい操作をしているようである。

週刊新潮さんはGDPに疑念をもっておられるようだが,是非カサアゲノミクス問題を取り上げて頂きたい。

この記事が広まったおかげでちょいちょいマスコミの方から取材を受けているので早い者勝ちだよ。

 

最新の国際的GDP算出基準である「2008SNA」対応を隠れ蓑し,全然関係無い「その他」という項目で異常なかさ上げがされていることを指摘した下記の記事は多いにバズッた。とはいえ,所詮5万アクセス程度。

blog.monoshirin.com

 

既存メディアが大きく取り上げてくれない限り,ネットだけの拡散力には限界がある。

 

ここで,リンク先を見るのもめんどくさいと言う方のために駆け足で「カサアゲノミクス」を説明する。

去年の12月にGDPは改定された。表向きは,最新の国際的GDP算出基準である「2008SNA」に対応するため,というのが大きな理由であった。これにより,研究開発費等がGDPに加えられるので,GDPが大きくかさ上げされると事前に報道されていた。

しかし・・・その「2008SNA」と全く関係無い「その他」という項目により,アベノミクス以降だけ異常なかさ上げがされていたのである。それが下記のグラフ。

 

f:id:monoshirin:20161229001940j:plain

アベノミクス以降(2013年度以降)だけ昇竜拳みたいに伸びている。

1990年代なんてかさ上げどころが全部かさ「下げ」になってるのに。

この「その他」の部分について,内訳が無いのか内閣府に問い合わせたら「無い」と言われたのである。

なお,変な誤解を振りまこうとする輩がいるので言っておくが,この内訳は「数字の」内訳である。内閣府は「その他」について内容を説明してはいるが,肝心の「数字の内訳」を公表していない。完全にブラックボックスである。

 

これが世に言う「カサアゲノミクス」であるが,今回は拙著「アベノミクスによろしく」にも載っていない別角度からの分析を試みる。重版になったらこの分析も追加しようかなと思っている。

なお,拙著「アベノミクスによろしく」ダイジェストはこちら

blog.monoshirin.com

 

この分析の結論を先に言うと,「改定後の名目民間最終消費支出が,名目家計消費支出指数の傾向と一致しない」ということである。

 

名目家計消費支出指数は総務省統計局が公表しているものである。各世帯がどれだけ消費にお金を使ったのかを指数化したもの。

統計局ホームページ/家計調査 家計消費指数 結果表(2015年基準)

 

他方,名目民間最終消費支出はGDP(支出側)の一項目であり,内閣府が公表している。国内の民間消費を全部足したものと考えればよい。

改定前後の名目民間最終消費支出と,名目家計消費支出指数(2015年=100)を重ねてみたのが下記グラフである。

なお,名目家計消費支出指数(2015年=100)は,2002年からの数値しかない。また,暦年(1月~12月)データしかないので,比較対象となる民間最終消費支出も暦年データである。年度(4月~翌年3月)データと混同しないよう注意されたい。

さらに,改定前のデータは2015年までしかないので,検証も2015年までのデータで行う。

f:id:monoshirin:20171016205419j:plain

 

改定前の名目民間最終消費支出(青)は,2015年でカクンと落ちている。

名目家計消費支出指数(緑)も,2015年でカクンと落ちている。

が・・・・改定後の名目民間最終消費支出(赤)は,落ちるどころか,微妙に上がっている(グラフだと分かりにくいかもしれないが,約1750億円ほど伸びている)。名目家計消費支出指数の動きと一致していないのである。

 

また,改定前後の名目民間最終消費支出(赤線と青線)をよく見て頂きたい。2015年だけ,グラフの動きが正反対になっている。

つまり,改定前の名目民間最終消費支出(青)は2015年で「下がって」いるのに,改定後の名目民間最終消費支出は「上がって」いるのである。

このように,改定前後のグラフの動きが正反対になるのは,過去22年で一度しか発生していない現象であり,2015年だけ。

 

ここで,改定前後の2015年名目民間最終消費支出の差額は,なんと7.8兆円もある。それだけかさ上げされたということだ。

拙著「アベノミクスによろしく」には書いたが,「その他」でかさ上げされた金額と,改定前後の名目民間最終消費支出の差額はほぼ一致している。アベノミクス以降の3年度のみ3年度連続でほぼ一致という抜群の不自然さである。

「その他」のかさ上げ額は年度の数字しか公表されておらず,暦年でどうなっているのか不明であるが,暦年データにおいても傾向は同じであろう。

要するに,「その他」で思いっきりかさ上げされた金額は,ほぼそのままアベノミクスで最も成績の悪かった民間消費に充てられた,ということである。

特に,2015年及び2015年度の民間最終消費支出が酷かったのだが,8兆円近くかさ上げしたので大幅に修正されてしまったのである。

だが,そんなにかさ上げしたら他の統計と当然つじつまが合わなくなる。だから総務省統計局の名目家計消費支出指数の傾向と一致しなかったのである。

 

ここで,上記のグラフをみてこんないちゃもんをつけてくる輩がいることが予想できる。「名目家計消費支出と名目民間最終消費支出って,元々傾向が完全に一致しているものでもないだろ」と。

確かに,名目家計消費支出指数は2011年までずっと下落傾向であり,名目民間最終消費支出の動きと完全に一致しているわけではない,。

この原因は,世帯数増加により,支出の平均値が下がったためと思われる。

f:id:monoshirin:20171016212023j:plain

統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103

※1995年と2011年にガクンと落ちているのは,地震阪神大震災東日本大震災)で正確な世帯数が把握できなかったため。

 

主に単身世帯が増えた影響で,総世帯数は増え続けてきた。これにより,世帯別の消費の平均値は当然下がっていく。この世帯数増加傾向は2014年まで続き,その後下降に転じた。

したがって,2014年までは「世帯数増加により支出の平均値が下がる」という要素を考慮に入れなければいけない。

 

そこで,「名目家計消費支出指数」に,「世帯数」をかければ,名目民間最終消費支出とほとんど同じようなグラフになるのではないか,と私は考えた。

それが下記のグラフの緑線である。これに改定前名目民間最終消費支出(青)と,改定後名目民間最終消費支出(赤)を重ねてみた。

f:id:monoshirin:20171016212807j:plain

予想どおり,緑線は名目民間最終消費支出とほぼ同じ傾向(他方が上がればもう一方も上がり,他方が下がればもう一方も下がる)を示している。

傾向が違っているのは過去14年中2回だけ。まずは2006年。緑線は下がっているが,赤線も青線も上がっている。この齟齬ができる原因は分からない。

(なお,緑線が2011年に思いっきり下がっているのは,さっきも言ったとおり東日本大震災の影響で正確な世帯数の統計がとれなかったためである。)

 

そして,2015年。緑線はやっぱりガクンと落ちているが,赤線はさっきも指摘したとおり微妙に上昇しており,傾向が一致しない。思いっきりかさ上げし過ぎてつじつまが合わなくなったため,と解釈すべきであろう。

 

このように,他の統計と一致しないという点も,「カサアゲノミクス」の疑念をさらに深めるものである。

 

ところで,ついでに国民の消費がどれほど悲惨な目にあっているかということを,名目及び実質家計消費支出指数を見ることによって確かめてみよう。

f:id:monoshirin:20171016214622j:plain

 

2013年に増税前の駆け込み需要で伸びた後,支出指数は名目(青)・実質(赤)共に大きく落ち込んでいる。特に実質家計消費支出指数(赤)が悲惨である。

まるでジェットコースターのように見えるので,私はこれを「アベ・コースター」と呼んでいる。2016年までひたすら下降を続けているが,この勢いだと2017年もさらに下がりそうだ。

さっきも言ったが,「総世帯数の増加により,平均値が下がる」という要素を考慮すべきなのは2014年まで。それ以降は逆に世帯数が減っているからである。

つまり,2015年と2016年は純粋に消費支出が減った,と評価すべきである。

 

そして,消費がこれだけ減っているということは,つまり我々1人1人の生活が苦しくなっているということだ。

なぜこんなことになっているのかは是非拙著を読んで確かめていただきたい。カサアゲノミクスについてもさらに別の角度から分析している。

 

それにしても・・・こうやって一度思いっきりかさ上げしてしまうと,それ以降もずっとかさ上げし続けるはめになる。なぜなら,本当の数字をそのまま出すともの凄いマイナス成長になってしまうからである。前年が思いっきりかさ上げされているのだから。

 

つまり,2016年以降のGDPは全然信用できない値になってしまった。週刊新潮に載っていた季節調整値でごまかすというテクニックもそういう状況から生まれた苦肉の策であろう。

 

もしこの「カサアゲノミクス」問題が国会で追及されれば,モリカケ問題を越える大騒ぎになるだろう。

モリカケは国内問題だし,「政策論争とは関係無い」という言い訳ができる。

しかし,カサアゲノミクスは違う。世界を騙す行為であり,「アベノミクス」という正に安倍政権の根幹を支えてきた政策に対する重大疑惑である。言い逃れができない。

 

ところで,今日取材していただいたとあるマスコミ関係者の方にこんなことを言われた。

「これほどあからさまなことをやりますかね」と。

私も最初はそう思ったが,今は違う。

「その他」で思いっきりかさ上げするという手法は結果を見れば全然あからさまではなかった。なぜなら私だけしか気付かなかったのだから。

そして,私が気付いたと言っても,マスコミが取り上げなければそこでおしまいである。

全マスコミにスルーされれば,カサアゲノミクスは無かったことにされるのだ。

 

また,「日本の官僚がそんなことをするのか」と思われるかもしれない。

しかし,少なくとも経産省の繊維統計については,長年にわたって改ざんされていたことが確定している。

www.nikkei.com

 

東芝神戸製鋼経産省,そして内閣府・・・・「KAIZEN」ならぬ「KAIZAN」が日本人の得意芸になってしまったとしたら,本当に悲しいことである。