国交省が統計不正が発覚して大問題になっている。経緯や問題点についてはこの朝日新聞のまとめ記事を見るとよい。新たな情報に合わせて随時更新されるという。
調査票の原票を消しゴムで消し、鉛筆で書き換えていたというのだから驚きである。生データを変えてしまっているため、復元もできない。年間1万件ほど行われていたそうである。
なお、これについては私も朝日新聞から取材を受けてちょっとコメントしている。
そして、以前毎月勤労統計で不正をやらかした厚生労働省は、またも不正をしていたことが発覚した。
こんなニュースが続くので、「日本政府は統計をいじくることなどしない」など、もう誰も思っていないだろう。
そこで、この機会に私が拙著で繰り返し指摘している「ソノタノミクス」について、改めて注目していただきたい。
この問題こそが、本丸である。GDPそのものがいじくられて歴史が変えられている。
「ソノタノミクス」とは、GDP改定の際に、「その他」という謎の項目によって、アベノミクス以降のみ数字が大きくかさ上げされた一方、それ以前については1990年代を中心に大きくかさ下げされた、という現象のことである。
2016年12月8日,内閣府はGDPの算出方法を変更し,それに伴い,1994年以降のGDPをすべて改定して公表した。要点は下記のとおり。
1.実質GDPの基準年を平成17年から平成23年に変更
2.算出基準を1993SNAから2008SNAに変更
3.その他もろもろ変更
4.1994年まで遡って全部改定
上記2の「2008SNA」によって、研究開発費等が上乗せされるため、GDPが20兆円程度上がる、ということが強調された。
しかし、ポイントは3の「その他もろもろ変更」という部分である。
大事なことなので5回言う。
・「その他」は2008SNAと関係ない。
・「その他」は2008SNAと関係ない。
・「その他」は2008SNAと関係ない。
・「その他」は2008SNAと関係ない。
・「その他」は2008SNAと関係ない。
なんでこんなにしつこく言うのか。GDPかさ上げを指摘すると、必ず「2008SNAに合わせたから上がっただけ」と言う輩が湧いてくるからである。
改定によってどれだけGDPがかさ上げされたのか。新旧を比較してみよう。
このように縦に並べただけだと、全体的に上方へ並行移動しただけのように見えるかもしれない。しかし、違うのである。これを分離してみよう。まず、旧基準から。
このように、改定前,2015年度の名目GDPは,ピークだった1997年度と20兆円以上も差があった。
しかし改定後の差は下記のとおりわずか0.9兆円となっているのである。つまり、2015年度の数字が、史上最高値であった1997年度にほぼ追いついてしまった。
その後どうなったかというと、めでたく2016年度に史上最高値を記録し、コロナ禍前の2019年度まで最高値を更新し続けたのだ。まさに歴史が変わったのである。
ただ、2017年度~2019年度はほぼ横ばいであり、しょぼい。それ以前の伸びがウソのようである。
話を元に戻す。下記のグラフは、新旧GDPの差額を抜き出したものである。
かさ上げ幅はアベノミクス以降が突出。
金額で言うと、2015年度はアベノミクス直前(2012年度)の1.5倍。
そして90年代との差が異常。1994年度なんか6.8兆円しかかさ上げされていない。
この差額の内訳が、下記表である。
要因を大きく分けると、①2008SNA対応によるもの②その他、の2つである。2008SNA対応部分については、内訳が詳細に書かれているが、その他はたったの1行。
まず、2008SNA対応部分のかさ上げ額を見てみよう。
同じ基準で改定したはずなのに右肩上がりになっており、これも不自然なのだが、「その他」はこの比ではない。下記のとおり。
アベノミクス以降だけが急激にかさ上げされている。アベノミクス以降のかさあげ平均値は5.6兆円。
他方、特に90年代は全部マイナス。その平均値を出すとマイナス3.8兆円。
このように、90年代を中心に異常なまでにかさ下げされた一方、アベノミクス以降だけが昇竜拳のようにかさ上げされているのである。
これがソノタノミクスだ。
もう、誰が見てもおかしいだろう。なぜ私しかツッコミを入れないのだ。
このソノタノミクスの影響がいかに大きいか。
改定後の数値から「その他」を引くと、それが分かる。
このように、「その他」を引いてしまうと、2015年度は1997年度に遠く及ばない。その差は13.4兆円。「その他」で数値が大きく調整されたことで、2015年度が1997年度にほぼ追いついたことが分かる。
この「その他」を引いた数値について、より深く分析してみよう。
このなかで、一番高いのが1997年度の538.1兆円。次いで、2007年度の534.4兆円。
「2016年度以降でGDP史上最高達成」を実現しようとした場合、この2つの年度が最も邪魔者である。
で、この1997年度と2007年度、「その他」でどれくらいかさ「下げ」されているのか見て見よう。
このように、かさ下げ額で言うと、異常にかさ上げされているのが1994年度の7.8兆円で1位なのだが、2位が1997年度の5兆円、さらに3位が2007年度の3.4兆円なのである。つまり、改定前の名目GDPで1位と2位になっている年度のかさ下げ額が、それぞれ2位と3位につけていることになるのだ。
改定前に数値が高かった年度を狙ったかのように大きく下げているように見える。そして、当該年度だけを下げるとバレバレになるので、それ以外の年度もほどよく下げて目立たなくさせているように見える。このように見えてしまうのは私だけか。
ところで、この「その他」によってかさ上げされた金額はどこに充てられたのか。改定前後の名目最終消費支出の差額と、「その他」を並べて見よう。
このように、改定前後の名目民間最終消費支出の差額と、「その他」のかさ上げ額を比較すると、アベノミクス以降のみ、3年度連続でほぼ一致する。
「その他」で異常にかさ上げされた数値は、アベノミクスで最も失敗した民間消費に充てられたように見えるのである。
ただ、非常に笑えてしまうのが、こんなに一生懸命かさ上げしたのになおしょぼいということである。このしょぼさは暦年実質民間最終消費支出を見るとよく分かるので見てみよう。なお、実質民間最終消費支出はGDPの55%前後を占める数値であり、ここが伸びないと日本経済は伸びない。
2020年はコロナの影響だから仕方ないが、その前から悲惨である。
2014年~2016年にかけては3年連続して落ちている。これは戦後初である。
また、2019年は、6年も前の2013年より下である。この「6年前を下回る」というのも戦後初である。
結局、2013年以降全ての年で、2013年の数値を下回っている。戦後最悪の消費停滞である。消費税増税の影響もあるが、それだけではこれほど落ちない。アベノミクス第1の矢「異次元の金融緩和」が引き起こした円安による物価上昇が被さったことにより、こんな悲劇が生まれたのである。
かさ上げしてこれなのだ。
かさ上げしなかったら、一体どうなっていたのだ。
日本は、コロナ禍になる前から、本当はマイナス成長になっていたのではないか。
それを隠すために、こんなに統計が破壊されているのではないか。
もっと深く知りたい方は、拙著「国家の統計破壊」を読んでいただきたい。
私が2019年に何度も国会へ行って追及した賃金偽装問題についても詳しく書いてある。
2019年の国会では、賃金偽装問題ではかなり追及したが、本丸であるソノタノミクス問題にたどり着く前に、時間切れになってしまった。
今度こそ、ソノタノミクスを追及しなければならない。
こいつがいわば統計問題の「ラスボス」である。