つい最近,総務省統計局が「消費動向指数」なる新しい統計を発表した。
今回はそれにツッコミを入れようと思うが,本題に入る前に,「カサアゲノミクス現象」について説明しておく。
簡単に言うと,平成28年12月に,日本のGDPが22年もさかのぼって改定されたのだが,アベノミクス以降が異常にかさ上げされているという現象である。
特に,家計最終消費支出のかさ上げが凄まじい。
日本のGDPの約6割を占めるのが民間最終消費支出。つまり,民間消費の総合計。
そして,民間最終消費支出の約98%を占めるのが家計最終消費支出。
家計最終消費支出が伸びなければ,日本のGDPは伸びない。
で,改定前の名目家計最終消費支出の推移はこんな感じだった。
単位は兆円。なお,この記事では全部暦年データを使う。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe163/gdemenuja.html
2014年から2015年にかけてカクンと落ちている。
そして,2015年よりも,2004年~2008年及び2014年の方が高い数値を示している。
ところが・・・改定後の数字がこちら。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h28/h28_kaku_top.html
2015年の数字が史上最高額になっている・・・。しかも,改定前は,2014年から2015年にかけてカクンと落ちていたのに,逆に上昇した。グラフの向きが正反対になったということである。
改定前後で家計最終消費支出がどれほどかさ上げされたのか,差額を抜き出したのが下記のグラフ。
2015年が昇竜拳みたいにかさ上げされている。その額なんと約8.5兆円。
アベノミクス以降でかさ上げ額1位~3位を独占。
そして,90年代はむしろかさ下げされている。全部マイナスですからね。
こんなん歴史の書き換えじゃねえか。野党の皆さん,ほんとマジでこれ騒いでよ。
そして,こんなに無茶なかさ上げをしたのだから,他の統計と齟齬がでるんじゃあるまいかと私は考えた。
消費関係で他に政府が公表しているデータと言えば,総務省統計局の家計調査における家計消費指数である。
その推移がこちら。
統計局ホームページ/家計調査 家計消費指数 結果表(2015年基準)
2013年に上がったが,その後はものすごい勢いで落ちている。アベノミクス万歳。
だた,これは各世帯の消費指数であり,総世帯の合計指数ではない。
そこで,単純に家計消費指数に世帯数をかければ,家計最終消費支出に近い数字が出るのではないか,と私は考えた。
世帯数の推移は下記のとおりである。
国民生活基礎調査 2016年 | ファイルから探す | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
だが,これはそのままだと使えない。ぼっこり落ち込んでいる部分があるが,それは震災の影響で世帯数を把握できなかったからである。
ところが,各県のHPを見ると,震災があったときの世帯数もちゃんと載っている。
そこで,各県のHPで公表されている世帯数を足して補正したものがこちら。
宮城県(10月末現在)
岩手県(3月末しかないので3月末)
熊本県(10月1日現在)
※1000世帯以下四捨五入したものを追加。福島が10月の数字を公表しているので,他もそれに合わせたが,岩手は3月末しかないので3月末の数字を採用。
で,この補正した世帯数に家計消費指数を乗じ,改定前の名目家計消費支出と比較したグラフがこちら。2002年を100とした指数で比較している。
思ったとおりだ。ほとんど同じ傾向を示している。グラフの動く向きが異なるのは2006年だけ。後は方向が全部一致し,乖離幅も小さい。
だが・・・改定後の家計最終消費支出と比較すると,恐ろしい結果が露わになる。
2014年まではほとんど同じ傾向だが,2015年からの乖離幅が異常。
2015年はグラフの動きが正反対。2016年は動く方向は同じだが,乖離幅は広がっている。
改定前後の家計最終消費支出について,家計消費指数×世帯数との乖離幅のみを比較したグラフがこちら。
改定後の家計最終消費支出の異常さについてお分かりいただけただろうか。
もう,無理くりかさ上げしているとしか思えない。
さて,ここまでは前置きである。これからが本題。
総務省が平成30年1月分から「消費動向指数」なるものを公表し始めた。
データはこちらから入手できる。
このデータについての総務省のサラッとした説明は下記のとおり。
消費動向指数は,家計調査の結果を補完し,消費全般の動向を捉える分析用のデータとして総務省統計局が開発中の参考指標です。家計消費指数を吸収するとともに,単身世帯を含む当月の世帯の平均的な消費,家計最終消費支出の総額の動向を推計しています。
家計調査では,単独世帯と総世帯について,毎月ではなく四半期ごとに公表していたが,この「消費動向指数」では,単独世帯も総世帯も毎月公表される。そして,総額についても,毎月指数が公表されるというのである。
この総額というのは,「総消費動向指数」として,2015年を100とした指数が公表されている。これはGDPの家計最終消費支出に対応するものらしい。
おや?じゃあこの指数と内閣府が公表している家計最終消費支出との関係はどうなるんだ?総務省が内閣府とは別に総額を計算して公表しているのか?でもそれで内閣府の数字とずれたらまずいだろう?
と思い,この「総消費動向指数」なるものと,先ほど見た家計最終消費支出について比較してみた。家計最終消費支出については2015年を100として指数化した。
一致。なんだ。やっぱり同じものじゃん。
総消費動向指数とは,少なくとも過去分については内閣の公表している家計最終消費支出をただ単に指数化しただけのものである。違いは毎月分を推計して公表していることだけか。
あのとっても怪しい家計最終消費支出と一致するのが総消費動向指数ということである。
念のため実質値についても比較してみた。
同じである。
それにしても実質で見ると悲惨である。2017年は2013年より下。4年間全然伸びていないことになる。原因は消費税増税に円安を被せて物価を思いっきり上げたからである。その物価の伸びに賃金が全然追い付かず,実質賃金が落ちた。賃金減ったら実質消費が伸びるわけがない。あんなに怪しいかさ上げをしてもこの程度。
では,各家庭の消費動向指数との比較はどうか。家計消費指数と,世帯消費動向指数を比較してみた。
2016年までは完全に一致。単純に過去のものを流用したのだろう。
2017年は,消費動向指数の方は実質と名目共に下降しており,家計消費指数の方は両方とも若干上向いている。
消費動向指数の方を見ると4年連続で下落しているということだ。悲惨。
さて,問題はなぜ「総消費動向指数」なるものが編み出されたか,である。
前述のとおり,各世帯の家計消費指数に,世帯数を乗じた数字と比較すると,どう見ても辻褄が合わなくなっている。
そういう計算をしなくても,端的に「各家庭の消費指数がこれだけ落ちているのに,家計最終消費支出が落ちていないのはおかしいのではないか」と思われる恐れがある。
「内閣府が公表している数字と総務省が公表している数字の辻褄があっていない」ということである。これに気づかれると,まずい(とはいえ,気付いているのはおそらく私だけだが・・・)
そこで,辻褄を合わせるため「総消費動向指数」なるものを編み出した,と考えるのは邪推であろうか。この数字があれば,内閣府の出す数字と総務省の出す数字が合っているように見えるので,かさ上げを覆い隠すことができる。
ほんとこの問題は国会で追及してほしい。なお,カサアゲノミクスについて詳しく分析した記事はこちら。
カサアゲノミクス問題については,某野党の議員から電話で話を聞かれたことがあり,おそらく国会で質問するんだろうな~と思っていたら,森友のスクープがあって吹っ飛んでしまった。本気で追及したらこっちの方がヤバイと思うんだが。
とはいえ,森友問題のおかげで「官僚は改ざんとかしないだろう」という世間の常識は見事に打ち破られたので,カサアゲノミクス問題が受け入れられやすくなる土壌ができたかもしれない。
アベノミクスの失敗について知りたい方は拙著「アベノミクスによろしく」をどうぞ。
現在発行部数4万部であるが,それでは世論にさざ波程度の影響も出ない。もっと多くの方に読んでいただきたいと思っている。