【分かりやすくまとめると・・・】
・帆船の帆は,風を受けると膨らむ。膨らんだ帆を境に,空気の流れる速さに差が生まれる。速い方の空気の気圧は下がる。
・空気は気圧の高い方から低い方に引き寄せられるので,帆が膨らんだ方向に揚力が生まれる。
・船底にキールをつけることで,横に流れる力が抑えられ,船が前に進む。向かい風に対して斜めの方向に帆船は動いていく。
最初,人類は流木などを見て,物が水に浮かぶことを知ったのだろう。
そして,木を束ねて筏を作った。筏は最も原始的な船だ。
筏を作るには道具が必要だから,筏が出来たのは石器時代より後だろう。
最初,船の推進力はもちろん人の力だった。人が櫂で水を掻いて船を進めていた。
だが,ある日誰かが風の力で船を進めることができることを発見した。
帆船の誕生さ。帆船は人の力以外のもので動く初めての船だった。
ヨットとかがそうだよね。あれ,いつも不思議に思うんだけど,追い風じゃないと進まないんじゃないの。
なんであれで目的地に着けるのか分からないよ。
向かい風になったら終わりじゃないか。
あれはね,揚力を巧みに利用しているんだ。
帆を風の向きに対して,平行に近い角度で向けると,風で膨らむ。
そうすると,膨らんだ帆を境にして空気の流れが変化する。
不思議なことに,膨らんだ側の空気の流れが,反対側の空気の流れよりも速くなるんだ。
そして,空気は流れが速くなると,気圧が低くなる性質を持っている。
なんでだろう。不思議だね。
分子が振動しているのは前に説明したよね。
圧力の正体はその分子運動だ。要するに分子がぶつかってくるから力を感じる。
空気の速度が速くなると,分子の運動エネルギーは移動する方向に使われる。
そうすると,移動方向以外へ作用する力は減ってしまう。
その結果,気圧が低くなるわけだな。
そう。そして,空気は,気圧が高い方から,気圧の低い方へ引き寄せられる性質がある。
つまり,帆の膨らんだ方向へ空気が引き寄せられていくんだ。
この空気の気圧差によって生じる力を揚力と言っている。
ちなみに,飛行機も揚力で浮かんでいる。
太郎,この紙をもって上から息を吹きかけてごらん。
紙が浮いてきたよ。紙の上の空気の速度が紙の下の空気の速度より早くなったからかな。
その通りだ。速度の違いが気圧の違いを生み,揚力が生まれたということだ。
へえ~。ところで,帆船はそのままだと帆の膨らんだ方へどんどん行っちゃうよね。
そう。それを防ぐために帆船には,底の部分にキールという板を取り付けている。
こうして横方向へ流れる力を抑えた結果,帆が膨らんだ方向から見て斜めの方向に船は進んでいく。
キールで力の向きを変化させるんだね。
そう。端的に言うと,帆船というのは,向かい風に向かって斜めに進んでいくということだ。
ずっと斜めのままだとやっぱり目的地にたどりつけないんじゃないの?
そのとおり。だから,一定の距離を進むと方向を変える。向かい風に向かってジグザグに進んでいくということさ。
そうか。なんだかめんどくさいんだね。
まあ確かにめんどくさい。でも,風の力を使って船を動かすことで,ヒトはとても長い距離を航海できるようになった。
例えば,あの有名なコロンブスがアメリカにたどり着いたのも,帆船があったからだ。
櫂で漕ぐだけの船じゃあ無理だろうね。手が疲れちゃうよ。
そうだね。そして,やがて人類は風という自然力を使う船ではなく,機械力を使う船を作り出した。
今,船のほとんどは機械力を使う船だ。
具体的には,水中でプロペラを回して船を動かしている。
プロペラで船が推進する原理は飛行機と一緒だ。後で飛行機のことを話す際に説明しよう。
機械力で動くようになるのは,自動車と一緒だね。
そのとおりだ。実は,船と自動車のエンジンの仕組みは大まかに言うと一緒なんだよ。
船に最初につかわれた機械力も蒸気機関だ。
そして,最初は蒸気機関で車輪をぐるぐる回して船を動かしていたんだ。
これを外輪船という。日本にペリーが来航した時の黒船も,外輪船だよ。
著作者:woinary
蒸気機関についても話したいところだけど,その前に,船にとって不可欠な羅針盤の話をしよう。