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今の自民党やりたい放題をもたらしているもの

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総務省|衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査結果

 

 

これは過去8回の衆議院総選挙における小選挙区の得票数(自民党民主党)と投票率の推移を示したものである。

 

平成21年総選挙は自民党民主党に大敗した選挙であったが、その際の自民党得票数は2730万1982。

それ以降の3回はすべて安倍総理自民党総裁になってから迎えた選挙だが、得票数で見ると、すべて民主党に大敗した平成21年総選挙を下回っている

「自民一強」と言われると、以前よりもはるかに自民党が強くなったかのように錯覚してしまいそうだが、そうではない。得票数で見れば、自民党の強さはたいして変わっていない。むしろ少し落ちている。

他方、民主党を見てみよう。大勝した平成21年総選挙では3347万5335 票も獲得しているが、平成24年総選挙では崖から落ちたような急降下を見せ、平成26年総選挙ではそこからさらに下がっている。そして、ご存知のとおり平成29年総選挙では分裂して消滅した。自民党が強くなったのではなく、民主党が勝手に弱くなっていったのである

 

これを見ると、自民党は「固定客」が多く、強さがあまり変わらないことが分かる。なお、平成17年総選挙の時の自民党の得票数が上がっているが、これは小泉純一郎郵政選挙の時であり、無党派層の票も呼び込めたのだろう。

 

他方、民主党は平成21年総選挙までずっと右肩上がりだったが、国民の期待を盛大に裏切ったため、平成24年総選挙では墜落してしまった。投票率の下降と共に民主党の得票数も落ちている。無党派層が離れた影響だろう。民主党は固定客が自民党ほど多くないので無党派層を取り込まないと勝てない。

 

小選挙区制というのは、二大政党が存在して政権交代を繰り返す状況になることを前提にしている。

当然の前提として、その二大政党は、力が拮抗していなければならない。そうでないと政権交代が起きない。

そして力が拮抗するには、それぞれの政党に同じくらいの「固定客」がいることが前提となると言うべきだろう。

二大政党制であるイギリスもアメリカも、昔から二大政党が政権交代を繰り返し、切磋琢磨してきた。昔から二大政党制なので、それぞれに一定の「固定客」がいる。

 

しかし、日本は違った。力が拮抗していたのは一時的なものに過ぎなかった。さらに、自民党は歴史が古く、ずっと権力の座にいて利権団体との関係も深いので多くの「固定客」がいるが、民主党はそれが自民党ほど多くは無い。無党派層の支持を得なければ自民党には勝てない。結果として「風頼み」の選挙になる。

 

そして政権を担当した経験が無いので、いざ政権運営させてみたらグダグダになった。一方に政権を担当した経験が無いという点も、他の二大政党制を取る国との大きな違いだった。

 

かつて民主党に投票した人は失望し、その多くは次の選挙で投票することすらしなかった。平成24年の総選挙を見ると、投票率は前年の69.3%から実に10%も落ちている。

民主党の力は自民党に遠く及ばない状態になった。

自民党には対外的な敵がいなくなった。

 

そして、中選挙区制の時は、一つの選挙区から候補者が複数当選するため、党内抗争が存在し、それが自民党内部での疑似政権交代をもたらしてきた。つまり党内の敵と戦っており、それが政治に緊張感をもたらしていた。

しかし、小選挙区制になり、公認権を持つ党執行部が絶大な力を握るようになると、党内抗争も静かになってしまった。

党執行部にとっては、対内的にも対外的にも敵がいない状況ができた。

こうなると、好き放題やっても選挙で勝てることになる。現に勝っている。

自民党の強固な組織票に対抗し得るのは無党派層だが、無党派層は支持したい政党が無いので、多くは選挙に行かない。

 

今の自民党やりたい放題をもたらしている最大の要因、それは「実力が拮抗している二大政党がある」という前提が欠けているのに小選挙区制が採用されている、という点だろう。

この前提が無ければ一党独裁状態になってしまうのは当然である。

昔から一定の「固定客」に支えられ、政権担当経験があり、力が拮抗した二大政党が存在するイギリスやアメリカとはその点が大きく違う。

結果から見れば、中選挙区制の方がまだましだっただろう。自民党内での抗争があり、疑似政権交代が起きるので、今のような好き放題はできなかったはずである。

 

今の状態はパン屋に例えるとわかりやすいかもしれない。

 

野党パン屋は「自民党パン屋のパンはまずいぞ!」とアピールするが、客からすれば「お前のパンの方がまずかったよ!」ということになる。

そして、多くの人が「どっちのパンもまずいからいらない。」となり、パンを買わないという決定をする。つまり、選挙に行かない。

元々固定客の多い自民党パン屋は余裕でそれでもやっていける。パンがまずくても固定客は買ってくれる。

自民党パン屋ほど固定客が多くない野党パン屋はカツカツになる。

野党パン屋としては「自民党パン屋はまずいぞ!」というだけではなく「野党パン屋のパンはうまいぞ!」とアピールして新しい客を集める必要がある。いくら相手の評判を落としても客が増えるわけではない。客には「パンを食べない」という選択肢があるのだから。

 

しかし、「あそこのパンはクソまずい」という評判が定着してしまっているため、苦境に立たされている。店名を変えてもその状況はなかなか変わらない。

 

 

この状況が変わるとしたら「新しいパン屋がいきなり現れる」場合かもしれない。

 

小池百合子氏を思い浮かべて欲しい。

颯爽と現れ、ある時期まで明らかに破竹の勢いであった。

「排除します」発言が無ければ、希望の党は野党第1党になっていたかもしれない。

 

今ではほとんどの人が同意してくれると思うが、小池氏は政治家として全然中身が無いカラッポの人である。私はカラッポおばさんと呼んでいる。

 

数多くの「〇〇ゼロ」公約を掲げたが、実現した公約は「ゼロ」である。

こんなカラッポおばさんでも、イメージ戦略で都民の心をつかんで知事選と都議選で勝利した。あの失言が無ければ国政選挙でも勝利していたかもしれない。

中身はカラッポなのに見た目だけはおいしそうなパンを売って人気を集めたのである。

 

本当はみんなパンが食べたいのだ。

しかし、売っているパンがみんなまずそうだった。

そこへ、斬新でおいしそうなパンを売るカラッポおばさんが現れたので、みんな飛びついた。しかしパンの中身はスッカスカだった。

 

小池氏レベルの人気を取れる新しいパン屋が現れれば、この自民党やりたい放題状態も一気に変わるかもしれない。だが、そのパンが中身スカスカであることは御免こうむりたい。

みんなが政治に無関心であるとは思わない。受け皿が無いだけ。民主党が大勝した平成21年の総選挙は投票率が70%近くもあったのだから。

 

一時は立憲民主党が「新しいパン屋」になりうるかと思ったが、現状だと支持率は自民党に遠く及ばない状態。だが、あの枝野氏の卓越した演説力は同党の大きな武器だ。今後じわじわ伸びてくるかもしれない。